株式会社ManGo 藤谷 英志先生「「失敗しないAI、失敗する人間」〜僕らが僕らであるために、いま何を創り出すべきか〜」を開催しました
7月9日(水)18:00-19:00、今年度第3回目の未来型医療創造卓越大学院プログラムFM DTS 融合セミナー(共催:臨床研究推進センターバイオデザイン部門)株式会社ManGo代表取締役CEO 藤谷 英志 先生の講演会をオンラインにて開催致しました。
今回の講演では、生成AIが全盛を迎える現代において、「人間にしかできないモノづくり」とは何かについて、38年間、編集者として雑誌や書籍を創ってきた藤谷先生にお話しいただきました。これまでのキャリアを通して培われたご経験をもとに、AIとの比較を交えながら、人間にしか備わっていない力について深く掘り下げていただき、人間だからこそ生み出せる“良いモノ”の本質に迫るお話をしていただきました。
現在、藤谷先生が経営されている日本マンガ塾でのご活動から、学生のマンガ制作の現場においても、AIはストーリー案の着想や素案の生成といった初期段階において、十分に活用可能な水準に達しているとご見解を述べられました。一方で、物語の構成や登場人物の描写、イラストの表現などにおいて一貫性を保つことについては、現時点ではAIにとってなお困難であるとご指摘されました。さらに、生成AIによる作品の根本的な課題として、表面的・表層的であるがゆえに、人の心を深く揺さぶるような感動を生み出すことができない点を、最大の欠点として挙げられました。
こうした議論を踏まえ、AIには実現し得ず、人間にしか備わっていない能力として、藤谷先生は「失敗を失敗として認識できる力」を紹介されました。たとえば「失恋」という失敗を例に挙げられ、その際に生じる後悔や嫉妬といった負の感情こそが、極めて個人的でオリジナリティの高い体験であり、芸術創造の源泉であると論じられました。
このように、失敗に伴う心の揺らぎやネガティブな感情の深層にこそ、人間ならではの創造力が宿り、独自性とエネルギーを備えた芸術作品が生まれるのだと強調されました。
また、米国のシンガーソングライターであるベック氏の言葉を引用しながら、「感動」とは創作者が自身の負の感情に根気強く向き合い、そこから導き出された「光」に対して、受け手が作品を通じて共鳴することで生じるものだと紹介されました。
この考え方に基づき、藤谷先生は、「人の心を動かすのは、人の心」と紹介し、真に“良いモノ”を生み出すためには、創作者自身が自らの内面と徹底的に向き合い、深く思考を巡らせることが大切だと強調されました。モノづくりにおける,内省と哲学の営みの必要性を伝えていただきました。
最後に、藤谷先生が伝えたい思いとして、「100年先まで残る何かをつくってほしい」というメッセージをお話しいただきました。その中で何が求められているか、何が流行しているかといった外的な評価に振り回されるのではなく、自らが本当に生み出したいものに向き合い、その創作意欲を大切にすること、そしてモノづくりに対する哲学を忘れないことを強調され、講演を締め括られました。
講演全体を通じて、藤谷先生は常に「自分自身と向き合い、深く考えること」の重要性を繰り返し強調されていました。それは単にモノづくりにおける姿勢にとどまらず、生成AIの進化やSNSの普及など、技術的・社会的変化が著しい現代において、受動的、あるいは外的要因に振り回されすぎることなく、自らの感性で物事を捉えるために必要な審美眼の鍛え方を、私たちに伝えていただいたように感じます。
本講演会は、卓越大学院プログラムに参加する学生の他、企業の方を含む幅広い領域から学内外478名の方々にご参加いただきました。
藤谷先生、ご講演いただきありがとうございました。
文責:教育学研究科 博士課程前期 2 年 三浦直己
